Yaqumo、富士通と中性原子量子コンピューターの実機検証 STARアーキテクチャとクラウド基盤を接続
Yaqumoと富士通は、Yaqumoが開発する中性原子型量子コンピュータ中性原子型量子コンピュータ中性原子量子コンピューター / Neutral Atom Quantum Computer / Neutral-Atom Quantum Computing電荷を持たない原子をレーザーなどで捕捉・配列し、その量子状態を量子ビットとして利用する量子計算方式。QI補足多数の原子を規則的に配置しやすい点が特徴。性能比較では原子数だけでなく、ゲート忠実度や再配置、損失率も確認したい。の実機を使い、Early-FTQCFTQCFault-Tolerant Quantum Computing / FTQC量子誤り訂正を用い、物理的なエラーが起きても正しい計算を続けられるようにする、将来の本格的な量子計算の方式。QI補足量子誤り訂正の実証とFTQCの実現は同義ではない。論理エラー率、必要な物理量子ビット数、論理ゲート性能などが重要になる。向けの「STARアーキテクチャ」と基本ソフトウェア「Open Quantum Toolchain for OPerators and USers」の検証を開始した。理論検討から実機評価へ進み、ハードウェアとの適合性やクラウド運用に必要な相互接続を調べる。
✍️ Quantum Indexの視点
発表内容の背景にある技術・事業上の意味と、数字や見出しだけでは見えにくい評価ポイントを解説します。 独自分析を読む ↓
発表概要
両社は2026年4月から、富士通が主に超伝導型を想定して開発してきたSTARアーキテクチャなどを、中性原子型へ適用できるか理論的に検討してきた。同年8月からは、Yaqumoが開発中のイッテルビウム中性原子型量子コンピュータを用いた実機検証に移行した。 STARアーキテクチャは、任意角度の位相回転に必要な量子ビット量子ビットQuantum Bit / Qubit量子コンピュータで情報を表す基本単位。0と1のどちらかだけでなく、それらを重ね合わせた量子状態を取れる。QI補足量子ビット数が多いほど必ず高性能とは限らない。誤り率、接続性、コヒーレンス時間や論理量子ビット数も重要になる。数を大幅に減らせる可能性を持つ。一方、その効果はハードウェア方式によって異なるため、今回の検証では中性原子型との適合性や、同方式の接続性を生かして必要な量子ビット数を抑えられるかを評価する。 基本ソフトウェアの検証では、中性原子型の制御系に合わせた命令変換、ジョブ管理、装置状態の監視、較正などの相互接続に取り組む。外部利用者がクラウド経由で実機を利用し、異なる方式の量子コンピュータを同一のインタフェースから扱える基盤の実現を目指す。 Yaqumoは2027年度を目途に、量子エラー訂正量子エラー訂正量子誤り訂正 / Quantum Error Correction / QEC複数の物理量子ビットに情報を分散して持たせ、量子状態を直接壊さずにエラーを検出・訂正する技術。QI補足実施しただけで実用的な耐障害性が得られるわけではない。論理エラー率が物理エラー率より改善しているかが重要になる。機能を備えた数百量子ビット超の実機開発を目標としている。今回の発表では、共同研究の商用化時期やサービスの提供条件、具体的な性能目標は示されていない。
重要ポイント
- 2026年4月に始めた理論検討を経て、同年8月から中性原子型量子コンピュータによる実機検証を開始した。
- STARアーキテクチャと中性原子型ハードウェアの適合性、必要量子ビット数を削減できる可能性を評価する。
- Open Quantum Toolchain for OPerators and USersを中性原子型の制御系へ対応させる。
- 命令変換、ジョブ管理、装置監視、較正を含むクラウド運用基盤の相互接続に取り組む。
- Yaqumoは2027年度を目途に、量子エラー訂正機能を備えた数百量子ビット超の実機開発を目指す。
技術・事業上の意味
技術面では、超伝導型を主に想定してきた計算アーキテクチャと基本ソフトウェアを中性原子型へ広げ、理論上の適用可能性を実際のハードウェアで評価する点に意味がある。中性原子型の接続性を生かし、STARアーキテクチャが必要量子ビット数の削減や効率的な計算に結び付くかが焦点となる。 事業面では、異なる方式の量子コンピュータを共通のインタフェースで運用し、クラウドから利用できる基盤につながる可能性がある。ただし、現段階は共同研究と実機検証であり、商用サービスの開始時期や提供条件は明らかになっていない。
今後の注目点
今後は、STARアーキテクチャを中性原子型実機で動かした結果と、量子ビット数削減の効果を示す評価データが焦点となる。基本ソフトウェアについては、命令変換からジョブ管理、監視、較正までの接続範囲と、共通インタフェースによるクラウド利用がどこまで実現するかが重要だ。加えて、Yaqumoが掲げる2027年度の数百量子ビット超・量子エラー訂正機能付き実機に向け、規模や訂正機能の進捗が具体化するかも判断材料となる。
✍️ Quantum Indexの視点
今回の発表は、Yaqumoにとって自社開発中の中性原子QPUQPU量子プロセッサ / Quantum Processor / Quantum Processing Unit / QPU量子ビットを搭載し、量子ゲートや測定などの量子計算処理を実行するハードウェアの中核部分。QI補足QPUの性能は量子ビット数だけでは判断できない。ゲート忠実度、接続性、速度、エラー率などを合わせて見る必要がある。を、研究室レベルのハードウェアから外部の計算アーキテクチャや運用基盤と接続できるシステムへ進めるための重要な検証と見るべきだ。国内では、分子科学研究所の大森賢治教授が率いるムーンショットプロジェクトで中性原子量子コンピューター「Shunkai」がすでに稼働しているが、現行システムにはInfleqtionが提供したQPUが使われている。Yaqumoは大森研と京都大学・高橋研の研究成果を基盤に設立された企業ではあるものの、ShunkaiそのものをYaqumoのシステムとみなすことはできない。
この違いを踏まえると、今回の富士通との実機検証にはYaqumo側にも大きな意味がある。Yaqumoが目指しているのは、研究成果の事業化にとどまらず、自社の中性原子QPUを備えた量子コンピューターを構築することだ。QPUは単体で動けば製品になるわけではなく、命令変換、ジョブ管理、装置監視、較正、クラウドアクセスなどの周辺基盤と接続して初めて、外部利用者が使える計算システムになる。富士通の「OQTOPUS (Open Quantum Toolchain for OPerators and USers)」と実機レベルで接続することは、Yaqumoにとってこのシステム化を一段進める機会になる。
以前取り上げたSCREENとの共同研究と合わせると、Yaqumoが現在どこを埋めようとしているかも見えやすい。SCREENとは高速SLMや対物レンズなど、中性原子QPUの大規模化を支える光学部材とモジュール化を進める。一方、今回の富士通との共同研究では、そのQPUを計算アーキテクチャやクラウド運用基盤につなぐ。つまりYaqumoは、研究室で実証された原子制御技術を中心に、部材・QPU・制御・ソフトウェアを外部企業との連携で一つの量子コンピューターへ組み上げようとしている段階と見ることができる。
富士通側にも別の意味がある。STARアーキテクチャは主に超伝導型を想定して開発されてきたが、今回は中性原子型へ適用範囲を広げる。これを現時点で超伝導型からの方針転換と断定できる公表材料はない。一方、Quantum Indexの独自取材で得ている情報も踏まえると、今回の動きを単なる対応方式の追加として見るだけでは不十分だろう。
少なくとも富士通は、STARや基本ソフトウェアの価値を特定の自社ハードウェアに閉じず、複数方式へ展開できる技術として実機検証し始めた。これは技術方式ごとの開発リスクを分散する意味を持つだけでなく、富士通の量子事業における競争軸を、QPUそのものからアーキテクチャやソフトウェア層へ広げる動きとも読める。今後、自社の超伝導型開発への投資やロードマップと、中性原子を含む他方式との連携がどのような比重になるかは、量子事業の重心に変化が生じているのかを測る重要な材料になる。Yaqumoにとっても、自社QPUがこうしたハードウェア非依存の基盤に接続できれば、独自のフルスタックをすべて内製せずに利用環境を構築できる可能性がある。
ただし、現段階でYaqumo製QPUが、ShunkaiでInfleqtionが担う現行QPUと性能や運用実績を比較できる段階に到達したわけではない。Yaqumoの今回の実機については量子ビット量子ビットQuantum Bit / Qubit量子コンピュータで情報を表す基本単位。0と1のどちらかだけでなく、それらを重ね合わせた量子状態を取れる。QI補足量子ビット数が多いほど必ず高性能とは限らない。誤り率、接続性、コヒーレンス時間や論理量子ビット数も重要になる。数やゲート忠実度ゲート忠実度Gate Fidelity / Quantum Gate Fidelity量子ゲート操作が、理想的な操作にどれだけ近く実行できたかを示す精度の指標。QI補足高いほど一般に良いが、測定方法や1量子ビット・2量子ビットゲートで値は異なる。比較時は評価条件も確認したい。、エラー率、安定稼働時間など比較に必要な性能指標が示されておらず、富士通との取り組みも実機検証を開始した段階だ。また、Shunkaiが今後約500物理量子ビット物理量子ビットPhysical Qubit量子プロセッサ上で実際に作られ、操作される個々の量子ビット。論理量子ビットを構成するためにも使われる。QI補足搭載数が多くても、そのまま実用計算能力を意味しない。誤り率や接続性、論理量子ビットに必要な個数も重要になる。へ拡張する際にInfleqtionのQPUを引き続き採用するのか、Yaqumoがムーンショット側のシステムにどのような形で関与するのかも公開情報からは明確ではない。
今後は、Yaqumoが2027年度に掲げる数百量子ビット超の実機で具体的な性能を示せるかに加え、そのQPUが富士通の基盤上で安定して動作し、外部ユーザーによる利用まで進むかが重要になる。さらに、SCREENとの光学系開発と富士通とのソフトウェア・アーキテクチャ連携がYaqumo自身の実機上で結び付けば、大森研などの研究成果を引き継ぐスタートアップという位置付けから、独自QPUを持つ国産中性原子量子コンピューター中性原子量子コンピューターNeutral Atom Quantum Computer / Neutral-Atom Quantum Computing電荷を持たない原子をレーザーなどで捕捉・配列し、その量子状態を量子ビットとして利用する量子計算方式。QI補足多数の原子を規則的に配置しやすい点が特徴。性能比較では原子数だけでなく、ゲート忠実度や再配置、損失率も確認したい。ベンダーとしての輪郭がより明確になる。
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