Infleqtion、Riverlaneと耐故障量子計算で協力 qLDPC・Sqale・リアルタイムQEC統合へ
InfleqtionとRiverlaneは、耐故障量子計算の実現に向けた覚書(MOU)を締結した。Riverlaneのリアルタイム量子誤り訂正量子誤り訂正Quantum Error Correction / QEC複数の物理量子ビットに情報を分散して持たせ、量子状態を直接壊さずにエラーを検出・訂正する技術。QI補足実施しただけで実用的な耐障害性が得られるわけではない。論理エラー率が物理エラー率より改善しているかが重要になる。技術と、Infleqtionの中性原子量子計算基盤やソフトウェア群を組み合わせ、信頼性の高い論理量子ビット論理量子ビットLogical Qubit複数の物理量子ビットと量子誤り訂正を使い、エラーから保護された1つの量子ビットとして扱う情報単位。QI補足「論理量子ビットを作った」だけでFTQCが完成したとは限らない。論理エラー率や演算性能、スケール可能性を確認したい。の構築に必要な統合技術を評価する。
✍️ Quantum Indexの視点
発表内容の背景にある技術・事業上の意味と、数字や見出しだけでは見えにくい評価ポイントを解説します。 独自分析を読む ↓
発表概要
評価対象には、Riverlaneのリアルタイム量子誤り訂正システム「Deltaflow」と開発用ソフトウェア基盤「Deltakit」が含まれる。Infleqtion側では、中性原子量子コンピューティング基盤コンパイラ「Superstaq」、オープンソースの量子低密度パリティ検査ライブラリ「qLDPC」を用いる。 量子誤り訂正では、複数の物理量子ビット物理量子ビットPhysical Qubit量子プロセッサ上で実際に作られ、操作される個々の量子ビット。論理量子ビットを構成するためにも使われる。QI補足搭載数が多くても、そのまま実用計算能力を意味しない。誤り率や接続性、論理量子ビットに必要な個数も重要になる。を使って誤りを検出・訂正し、計算に必要な量子情報を保つ。大規模化には、量子プロセッサ量子プロセッサQuantum Processor / Quantum Processing Unit / QPU量子ビットを搭載し、量子ゲートや測定などの量子計算処理を実行するハードウェアの中核部分。QI補足QPUの性能は量子ビット数だけでは判断できない。ゲート忠実度、接続性、速度、エラー率などを合わせて見る必要がある。、コンパイラ、誤り訂正システムをリアルタイムで協調動作させる必要がある。両社は技術ワークショップを開催し、ロードマップの調整、統合箇所の特定、実証候補の具体化を進める計画である。 現時点の発表は統合評価に向けたMOUであり、実証結果や商用提供の時期は示されていない。達成を目指す論理量子ビット数、誤り率、実施期間、投資額も明らかにされていない。
重要ポイント
- RiverlaneのDeltaflowおよびDeltakitと、Infleqtionの中性原子量子計算基盤との統合を評価する。
- SuperstaqコンパイラとオープンソースのqLDPCソフトウェアライブラリも評価対象に含まれる。
- プロセッサ、コンパイラ、誤り訂正システムのリアルタイム協調を検証し、信頼性の高い論理量子ビットの構築を目指す。
- 両社は技術ワークショップを通じ、ロードマップ、統合箇所、耐故障量子計算の実証候補を具体化する計画である。
- 実証結果、定量的な性能目標、商用化時期は発表されていない。
技術・事業上の意味
技術面では、中性原子ハードウェア、コンパイラ、リアルタイム量子誤り訂正という異なる階層を一体化し、論理量子ビットに必要な制御系の実現可能性を評価する取り組みである。事業面では、英国の量子コンピューティング計画における両社の協力を具体化し、中性原子方式中性原子方式中性原子量子コンピューター / Neutral Atom Quantum Computer / Neutral-Atom Quantum Computing電荷を持たない原子をレーザーなどで捕捉・配列し、その量子状態を量子ビットとして利用する量子計算方式。QI補足多数の原子を規則的に配置しやすい点が特徴。性能比較では原子数だけでなく、ゲート忠実度や再配置、損失率も確認したい。と量子誤り訂正の開発基盤を強化する可能性がある。ただし、現段階はMOUに基づく検討であり、実用性や事業化を判断できる成果はまだ示されていない。
今後の注目点
今後は、技術ワークショップを経て統合箇所と実証内容がどこまで具体化されるかが焦点となる。実証に進んだ場合は、リアルタイム処理の成立に加え、物理量子ビットに対する誤り抑制効果や論理量子ビットの性能が定量的に示されるかが重要である。さらに、英国の量子コンピューティング計画での位置付けや、評価から継続的な共同開発・提供へ進むかも事業面の判断材料となる。
✍️ Quantum Indexの視点
今回のMOUは、単発の提携として見るより、Infleqtionが中性原子方式中性原子方式中性原子量子コンピューター / Neutral Atom Quantum Computer / Neutral-Atom Quantum Computing電荷を持たない原子をレーザーなどで捕捉・配列し、その量子状態を量子ビットとして利用する量子計算方式。QI補足多数の原子を規則的に配置しやすい点が特徴。性能比較では原子数だけでなく、ゲート忠実度や再配置、損失率も確認したい。の耐故障量子計算(FTQCFTQCFault-Tolerant Quantum Computing / FTQC量子誤り訂正を用い、物理的なエラーが起きても正しい計算を続けられるようにする、将来の本格的な量子計算の方式。QI補足量子誤り訂正の実証とFTQCの実現は同義ではない。論理エラー率、必要な物理量子ビット数、論理ゲート性能などが重要になる。)に必要な技術スタックを組み上げる一連の動きとして見ると位置付けが分かりやすい。
Infleqtionは9月14日、NVIDIAのCUDA-Q Logicalと自社のqLDPCライブラリを統合し、98個の物理データ量子ビット量子ビットQuantum Bit / Qubit量子コンピュータで情報を表す基本単位。0と1のどちらかだけでなく、それらを重ね合わせた量子状態を取れる。QI補足量子ビット数が多いほど必ず高性能とは限らない。誤り率、接続性、コヒーレンス時間や論理量子ビット数も重要になる。から18論理量子ビット論理量子ビットLogical Qubit複数の物理量子ビットと量子誤り訂正を使い、エラーから保護された1つの量子ビットとして扱う情報単位。QI補足「論理量子ビットを作った」だけでFTQCが完成したとは限らない。論理エラー率や演算性能、スケール可能性を確認したい。を構成する高レートQECコードを検証した。ただし、この段階で確認されたのは主にコード構築や論理演算子、コンパイルの整合性であり、Infleqtion自身も、物理的なシンドローム抽出、ノイズモデル、デコーダー、処理速度などは今後の課題としている。
続く9月24日には、Sqale上で80物理量子ビット物理量子ビットPhysical Qubit量子プロセッサ上で実際に作られ、操作される個々の量子ビット。論理量子ビットを構成するためにも使われる。QI補足搭載数が多くても、そのまま実用計算能力を意味しない。誤り率や接続性、論理量子ビットに必要な個数も重要になる。を使い、30論理量子ビットを単一の回路内でエンタングルさせる実験を発表した。こちらは実機側から論理量子ビットを扱う能力を示したものだが、継続的に誤りを検出・訂正しながら長時間の計算を維持する、本格的なリアルタイムQECQEC量子誤り訂正 / Quantum Error Correction / QEC複数の物理量子ビットに情報を分散して持たせ、量子状態を直接壊さずにエラーを検出・訂正する技術。QI補足実施しただけで実用的な耐障害性が得られるわけではない。論理エラー率が物理エラー率より改善しているかが重要になる。とはまだ別の段階にある。
今回のRiverlaneとの協力は、その間を埋める動きと考えられる。
| レイヤー | 主な技術・製品 | 今回までに見えている役割 |
|---|---|---|
| 量子ハードウェア | Infleqtion Sqale | 中性原子QPUQPU量子プロセッサ / Quantum Processor / Quantum Processing Unit / QPU量子ビットを搭載し、量子ゲートや測定などの量子計算処理を実行するハードウェアの中核部分。QI補足QPUの性能は量子ビット数だけでは判断できない。ゲート忠実度、接続性、速度、エラー率などを合わせて見る必要がある。上で物理・論理量子ビットを実行 |
| QECコード | Infleqtion qLDPC | 少ない物理量子ビットで論理量子ビットを構成 |
| 論理計算・開発基盤 | NVIDIA CUDA-Q Logical | QECコードや論理計算の記述・検証 |
| コンパイル | Superstaq | 論理回路をInfleqtionの実機へ落とし込む |
| リアルタイムQEC | Riverlane Deltaflow | シンドローム情報の処理、デコード、QECのリアルタイム実行 |
| 開発ツール | Riverlane Deltakit | QECシステムの開発・評価 |
特にRiverlaneが担おうとしているのは、量子誤り訂正を「コードとして成立させる」だけでなく、実機の動作速度に追従して継続的に回す部分だ。大規模FTQCでは、量子プロセッサ、測定、コンパイラ、デコーダー、古典制御をリアルタイムで協調させる必要があり、今回の発表でもこの統合が中心テーマになっている。
もっとも、InfleqtionとRiverlaneの関係自体も今回がゼロからのスタートではない。Riverlaneは2025年3月の時点で、Deltaflow 2をInfleqtionのSqaleおよびqLDPCソフトウェアと統合し、両システム間のリアルタイムデータ転送を確認したと発表している。今回のMOUは、その接続試験からさらに踏み込み、Superstaqなども含めたFTQCスタック全体での統合可能性を検討するものと見ることができる。
Riverlaneは「どの量子コンピューターにもQECを売る」戦略か
Riverlane側から見ると、今回のInfleqtionとの協力はさらに大きな戦略の一部でもある。
Riverlaneは自社で量子プロセッサを開発するのではなく、Deltaflowを量子コンピューターのQEC基盤として提供している。そのため、一つの量子ビット方式に依存するより、超伝導、中性原子など複数方式のハードウェア企業と接続し、「どの量子コンピューターが勝っても、そのQECレイヤーにはRiverlaneが入っている」状態を作る方が事業上合理的だ。
実際、RiverlaneはRigettiやOQCなどとも実機を使ったQEC統合を進めており、量子ハードウェア企業を横断してDeltaflowを展開している。
したがって、Riverlaneの提携ニュースを見る際には「また別の量子企業と提携した」という件数そのものより、各提携がどこまで深く進んでいるかを見る必要がある。MOUや共同検討なのか、Deltaflowが納入されたのか、実機とのデータ接続まで進んだのか、リアルタイムデコードを実行したのか、さらに論理エラー率を実際に改善したのかでは意味が大きく異なる。
Shunkaiにもつながる可能性
InfleqtionのFTQCスタックが今後どこまで共通化されるかも興味深い。
Infleqtionは日本でも、分子科学研究所の大森賢治教授らと中性原子量子コンピューター「Shunkai」を稼働させている。現在は約50量子ビットから始まり、約500量子ビットへの拡張が計画されているほか、2026年4月に始まったMoonshotプロジェクトの次期フェーズでは、最大1万物理量子ビットと量子誤り検出・訂正機能を持つ中性原子FTQCを目標としている。
今回のMOUは英国でのFTQC開発を対象としており、ShunkaiへのDeltaflow採用は発表されていない。しかし、InfleqtionがSqale、Superstaq、qLDPCなどを中心に共通のFTQCスタックを構築するのであれば、そこで確立したリアルタイムQEC技術が、将来的にShunkaiを含む他拠点のシステムへ展開される可能性はある。
その意味でも、今回重要なのは「Riverlaneと提携した」という事実だけではない。InfleqtionがqLDPC、CUDA-Q Logical、Superstaq、Sqale、そしてRiverlaneのリアルタイムQECをどこまで一つのFTQCシステムとして統合できるかが本質になる。
現段階ではMOUである。次に評価すべきなのは、どのQECコードを使い、何個の物理・論理量子ビットで、どの程度のリアルタイム性能と論理エラー抑制を実機上で示せるかだ。そこまで数字が出て初めて、InfleqtionのFTQCスタックとRiverlaneの横断型QEC戦略の実力が見えてくる。
NETWORKInfleqtionを取り巻く業界ネットワークを見る →関連記事
- Infleqtion QECの「5倍改善」は何を意味するのか 相次ぐ低遅延・低オーバーヘッド・高符号化率をどう読む
- Infleqtion、国内初のフルスタック中性原子量子コンピューター「Shunkai」の稼働を支援
- QuEra、メリーランド大学に既存機Aquilaを提供 研究支援の先に「将来の顧客づくり」も
