Yaqumo、NEDO事業に採択 SCREENと中性原子量子コンピューター向け光学モジュールを共同開発
Yaqumoは、NEDOの大規模量子コンピュータ向け部素材開発事業に採択され、半導体製造装置を主力とし、グループでMEMS型SLMの開発・製造も手がけるSCREENホールディングスとの共同研究を開始した。冷却原子型量子コンピュータを支える光学基幹デバイスの高性能化と国産化に加え、複数ベンダーへの適用を想定したモジュール化とインターフェース標準化に取り組む。
✍️ Quantum Indexの視点
発表内容の背景にある技術・事業上の意味と、数字や見出しだけでは見えにくい評価ポイントを解説します。 独自分析を読む ↓
発表概要
共同研究では、大規模かつ高速な個別原子アドレッシングを可能にする高速SLM(空間光変調器)モジュールを開発する。あわせて、複数波長に対応する対物レンズや、低熱膨張材料などを用いた環境変化に強い光学部素材の開発を進める。 光学系と制御系を機能単位で再構成し、複数の量子コンピュータベンダーに共通して適用できる標準モジュール体系も検討する。さらに、フォトニック集積回路フォトニック集積回路Photonic Integrated Circuit / PIC光を導く導波路や変調器、分岐器などの光学部品を、半導体チップ上に集積した回路。QI補足量子用途に限らず通信やセンシングでも使われる。量子関連の発表では、光源や検出器までどこまで一体化しているかを確認したい。の適用可能性を評価し、光学系の小型化に向けた技術ロードマップを策定する方針だ。 開発した部素材とモジュールはYaqumoの量子コンピュータへの組み込みを想定する。将来的には国内企業との連携を通じて量産・供給体制を整え、国内外の量子コンピュータベンダーへの供給を目指すとしている。
重要ポイント
- NEDOの「大規模量子コンピュータ実現に向けた部素材開発」にYaqumoが採択された
- SCREENとの共同研究で、高速リフレッシュレートを備えたSLMモジュールを開発する
- 多波長対応対物レンズと、長時間の安定動作を支える光学部素材の確立に取り組む
- 複数ベンダーへの適用を想定したモジュール体系とインターフェース仕様を検討する
- フォトニック集積回路による光学系小型化の可能性を評価し、技術ロードマップを策定する
技術・事業上の意味
冷却原子型量子コンピュータでは、原子の配置や量子ゲート操作に用いる光学系が装置性能と拡張性を左右する。今回の事業は、光学部素材の性能不足や海外依存、供給構造の分散、非モジュール化という課題に対し、量子コンピュータ開発企業と製造技術企業が要求仕様の定義から実機評価、モジュール設計まで共同で取り組む点に技術的な意味がある。 事業面では、部素材の国産化と共通モジュール化が進めば、装置開発の効率化や供給基盤の整備につながる可能性がある。一方、事業期間、開発予算、具体的な性能目標、量産開始時期、供給先は今回の発表では明らかにされておらず、産業化への効果は今後の成果に依存する。
今後の注目点
今後は、高速SLMや多波長対応対物レンズの性能目標と実機評価結果が示されるかが焦点となる。Yaqumoの量子コンピュータへ組み込んだ際の安定性やゲート性能への効果に加え、標準インターフェースが他社装置にも適用できるかが重要だ。量産方法や供給時期、外部ベンダーへの提供計画が具体化するかも、事業性を判断する材料となる。
✍️ Quantum Indexの視点
今回の発表は、Yaqumoにとって単なる部材開発ではなく、研究室発の中性原子量子技術を「装置産業」に近づけるための取り組みと見るべきだ。Yaqumoは2025年設立の新しい企業だが、その背景には京都大学・高橋義朗研究室や分子科学研究所・大森賢治研究室の研究があり、大森教授のチームはInfleqtionと国内初のフルスタック中性原子量子コンピューター「Shunkai」の立ち上げも進めている。今回のNEDO事業は、こうした実機開発で必要になる光学系を、より量産・供給しやすい部材やモジュールへ変えていく動きと位置付けられる。
中性原子方式中性原子方式中性原子量子コンピューター / Neutral Atom Quantum Computer / Neutral-Atom Quantum Computing電荷を持たない原子をレーザーなどで捕捉・配列し、その量子状態を量子ビットとして利用する量子計算方式。QI補足多数の原子を規則的に配置しやすい点が特徴。性能比較では原子数だけでなく、ゲート忠実度や再配置、損失率も確認したい。では、原子数を増やせばそのまま大規模化できるわけではない。原子の捕捉、再配置、個別操作には多数のレーザーや光学部品が必要になり、規模が大きくなるほど調整や安定化、装置サイズも課題になる。Shunkaiも現在の約50量子ビット量子ビットQuantum Bit / Qubit量子コンピュータで情報を表す基本単位。0と1のどちらかだけでなく、それらを重ね合わせた量子状態を取れる。QI補足量子ビット数が多いほど必ず高性能とは限らない。誤り率、接続性、コヒーレンス時間や論理量子ビット数も重要になる。から約500量子ビット、長期的には最大1万物理量子ビット物理量子ビットPhysical Qubit量子プロセッサ上で実際に作られ、操作される個々の量子ビット。論理量子ビットを構成するためにも使われる。QI補足搭載数が多くても、そのまま実用計算能力を意味しない。誤り率や接続性、論理量子ビットに必要な個数も重要になる。を目標としているが、こうしたスケールアップを支えるにはQPUQPU量子プロセッサ / Quantum Processor / Quantum Processing Unit / QPU量子ビットを搭載し、量子ゲートや測定などの量子計算処理を実行するハードウェアの中核部分。QI補足QPUの性能は量子ビット数だけでは判断できない。ゲート忠実度、接続性、速度、エラー率などを合わせて見る必要がある。だけでなく、その周辺光学系をどこまで安定して構築できるかが重要になる。
その点で、YaqumoとSCREENが高速SLMや対物レンズを開発するだけでなく、複数ベンダーへの適用を想定してモジュール化やインターフェース標準化まで検討する点には事業的な意味がある。自社装置専用の光学系にとどまれば一つの量子コンピューター開発案件だが、他社にも供給できる共通モジュールになれば、量子コンピューター本体とは別の部材・装置ビジネスとして成立する余地が出てくる。
ただし、現時点ではその可能性を評価できるだけの実績はまだない。高速SLMの具体的な性能目標や実機での改善効果、標準インターフェースの仕様は明らかになっておらず、PICについても適用可能性を評価する段階だ。また、Shunkaiの現行QPUはInfleqtionが提供しており、Yaqumoが今後どこまでハードウェアを担うのかも見えていない。今後は、開発した光学モジュールがYaqumo実機やShunkaiで実際に採用されるか、さらに他社の中性原子システムにも展開できるかが、今回の取り組みを研究開発から産業基盤へ進められるかを判断するポイントになる。
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