QunaSysの『QURI SDK Enterprise』、理研の量子・HPC連携基盤に採用
QunaSysは、量子ソフトウェア開発キット「QURI SDK Enterprise」が、理化学研究所の量子・HPC連携プラットフォームに正式採用されたと発表した。NEDOの委託事業「JHPC-quantum」の利用者は、スーパーコンピュータ「富岳」などから複数の量子デバイスへアクセスできるようになる。
✍️ Quantum Indexの視点
発表内容の背景にある技術・事業上の意味と、数字や見出しだけでは見えにくい評価ポイントを解説します。 独自分析を読む ↓
発表概要
「JHPC-quantum」は、量子コンピュータとスーパーコンピュータを連携させ、アプリケーションの有用性や量子優位性量子優位性Quantum Advantage / Quantum Computational Advantage特定の問題で、量子コンピュータが古典計算より速度、精度、コストなどで実用上の優位を示すこと。QI補足「量子超越性」と同義とは限らず、実用性を含めて使われることが多い。主張を見る際は比較した古典手法と評価指標を確認したい。の実証を目指すプロジェクトである。今回採用されたQURI SDK Enterpriseは、理研計算科学研究センターのIBM Quantum System Two「ibm_kobe」と、理研和光キャンパスのイオントラップ型量子コンピュータイオントラップ型量子コンピュータTrapped-Ion Quantum Computer / Trapped-Ion Quantum Computing電場で捕捉したイオンの内部状態を量子ビットとして使い、レーザーなどで量子ゲートを操作する方式。QI補足高い操作精度や長いコヒーレンス時間が特徴だが、速度や大規模化には別の課題がある。単一指標だけで方式を比較しないことが重要。「黎明」(Quantinuum System Model H2)に対応する。 HPC環境では「富岳」の計算ノードとプリポストノードに加え、NVIDIA GB200 NVL4を搭載するGPUスーパーコンピュータ「ROQUO」を利用できる。SDKにはQSCIやADAPT-QSCIなどの量子・HPC連携アルゴリズムが含まれ、量子化学、材料科学、CAE向けの計算を支援する。 量子回路量子回路Quantum Circuit量子ビットに対する初期化、量子ゲート操作、測定などを順番に並べ、量子コンピュータで実行する計算手順を表したもの。QI補足同じアルゴリズムでも、使用する量子ビット数や回路深度、ゲート数は実装によって変わる。実機性能を比べる際は、回路の規模やコンパイル後の条件も確認したい。シミュレーションはMPIによる分散並列実行に対応する。「富岳」ではmpiQulacs、「ROQUO」ではcuQuantumベースのバックエンドを使い、複数のノードやプロセッサにまたがる計算を実行できる。理研は、テストユーザプログラムで同SDKへの要望が高かったことを導入理由としている。
重要ポイント
- 「JHPC-quantum」の量子・HPC連携プラットフォームにQURI SDK Enterpriseが正式採用された
- IBM Quantum System Two「ibm_kobe」とQuantinuum System Model H2「黎明」に対応する
- 「富岳」とGPUスーパーコンピュータ「ROQUO」から量子デバイスへアクセスできる
- QSCIやADAPT-QSCIを収録し、量子化学、材料科学、CAE向けの開発を支援する
- MPIによる分散並列シミュレーションに対応し、単一ノードを超える規模の量子回路を扱える
技術・事業上の意味
異なる方式の量子デバイスと複数のHPC環境を一つのSDKから扱えるため、量子・HPCハイブリッド計算の開発手順を共通化しやすくなる。実機アクセスと大規模な分散並列シミュレーションを組み合わせられる点は、量子化学や材料科学、CAEにおけるアルゴリズム検証の基盤として技術的な意味がある。事業面では、テストユーザからの要望を受けた正式採用であり、QunaSysの企業・研究機関向けSDKが公的研究プロジェクトの運用環境に組み込まれた事例となる。一方、具体的な性能向上や量子優位性の達成、商用化の時期は示されていない。
今後の注目点
今後は、QSCIやADAPT-QSCIを実機とHPCで動かした際の計算規模、精度、処理時間などの比較結果が重要になる。量子化学、材料科学、CAEで具体的な利用成果が示されるかに加え、対応する量子デバイスやHPC環境の拡充内容も観測点となる。テストユーザによる利用が本格的な研究開発や産業向け事例へ広がるか、理研とQunaSysの協業がどのように具体化するかも焦点である。
✍️ Quantum Indexの視点
今回の採用で確認できるのは、QURI SDK EnterpriseがJHPC-quantumの研究・実証基盤に組み込まれたという事実までだ。ただ、その理由として、テストユーザーからの要望が導入理由とされている。
利用対象は現時点ではJHPC-quantumの参加者が中心で、QURI SDKを選ぶ理由が特に大きいのは、QSCIやADAPT-QSCIなど同社が実装するアルゴリズムを必要とするユーザーだ。一方、マルチハード対応や量子・古典計算古典計算Classical Computing / Classical Computation0と1のビットを使って計算する、現在一般に使われているコンピューターによる計算方式。QI補足量子計算との比較対象として使われるが、CPU、GPU、スーパーコンピュータや専用アルゴリズムまで含み得るため比較条件に注意したい。の連携自体は他のSDKや開発基盤にも存在し、既存のQiskitなどで開発資産を持つ研究者には移行や併用のコストも生じる。
プロジェクト終了後の利用条件やEnterprise版の価格、継続利用の見通しは示されていない。今後の評価を左右するのは、国プロ内での採用実績そのものではなく、QURI固有のアルゴリズムや機能が実際にどの程度使われ、終了後も利用者が費用を負担して選び続けるだけの価値を示せるかである。
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