Infleqtion、30論理量子ビットをエンタングル 80物理量子ビットで実証、業界最多ではない
Infleqtionは、中性原子方式中性原子方式中性原子量子コンピューター / Neutral Atom Quantum Computer / Neutral-Atom Quantum Computing電荷を持たない原子をレーザーなどで捕捉・配列し、その量子状態を量子ビットとして利用する量子計算方式。QI補足多数の原子を規則的に配置しやすい点が特徴。性能比較では原子数だけでなく、ゲート忠実度や再配置、損失率も確認したい。の量子コンピューター「Sqale」で、80物理量子ビット物理量子ビットPhysical Qubit量子プロセッサ上で実際に作られ、操作される個々の量子ビット。論理量子ビットを構成するためにも使われる。QI補足搭載数が多くても、そのまま実用計算能力を意味しない。誤り率や接続性、論理量子ビットに必要な個数も重要になる。を用いて30論理量子ビット論理量子ビットLogical Qubit複数の物理量子ビットと量子誤り訂正を使い、エラーから保護された1つの量子ビットとして扱う情報単位。QI補足「論理量子ビットを作った」だけでFTQCが完成したとは限らない。論理エラー率や演算性能、スケール可能性を確認したい。を単一の量子状態量子状態Quantum State量子系がどのような状態にあるかを表すもので、測定したときに得られる結果の確率などを決める。QI補足量子状態は、量子ビットの「0か1か」という単純な値そのものではない。重ね合わせや混合状態などを含み、どのように準備・測定されたかも重要になる。にエンタングルしたと発表した。ハードウェアとソフトウェアの協調設計により、約1,000回の物理操作を含む回路を実行したとしている。
✍️ Quantum Indexの視点
発表内容の背景にある技術・事業上の意味と、数字や見出しだけでは見えにくい評価ポイントを解説します。 独自分析を読む ↓
発表概要
今回の実験では、Sqale上の80物理量子ビットから30論理量子ビットを構成し、全論理量子ビットを単一のコヒーレントな量子状態にエンタングルした。回路の規模は約1,000回の物理操作に相当する「1 KiloQuOp」で、結果を示す信号は基礎ノイズの約1,000倍だったと同社は説明している。 Sqaleは、個々の量子ビット量子ビットQuantum Bit / Qubit量子コンピュータで情報を表す基本単位。0と1のどちらかだけでなく、それらを重ね合わせた量子状態を取れる。QI補足量子ビット数が多いほど必ず高性能とは限らない。誤り率、接続性、コヒーレンス時間や論理量子ビット数も重要になる。を制御する機能と、動的に再構成できる原子配列を組み合わせた中性原子方式のシステムである。量子ビット間の全対全接続を維持しながら、原子移動に伴う誤りの蓄積や原子損失、処理時間の増加を抑える設計だとしている。 今回の成果には、Sqaleのハードウェアと量子ソフトウェア基盤「Superstaq」の協調設計が用いられた。さらに、GPT 5.6 Solを利用して発見したという論理量子ビット間の新たなエンタングリング操作により、主要な論理演算に必要な物理ゲート数を従来比で半減したとしている。 Infleqtionによると、Sqale上の論理量子ビット回路には3顧客がいる。その一つがWellcome LeapのQuantum for Bioプログラムで、過去に12論理量子ビットを使った量子ニューラルネットワークを実機で実演していた。同社は今後、2028年に100論理量子ビット、2030年に1,000論理量子ビットを実現する目標を掲げている。
重要ポイント
- 80物理量子ビットを用いて30論理量子ビットを構成し、全体を単一の量子状態にエンタングルした。
- 約1,000回の物理操作に相当する回路を実行し、結果を示す信号は基礎ノイズの約1,000倍だったとしている。
- AI支援で発見した論理量子ビット間の操作により、主要な論理演算に必要な物理ゲート数を半減した。
- 個別量子ビット制御と再構成可能な原子配列を、Superstaqとの協調設計で組み合わせた。
- 論理量子ビット回路について3顧客がいるとし、2028年に100論理量子ビット、2030年に1,000論理量子ビットを目標に置く。
技術・事業上の意味
技術面では、論理量子ビットの数だけでなく、30個すべてを同一回路内でエンタングルし、約1,000回の物理操作を実行した点が重要である。物理ゲート数の削減は、ゲートごとに生じ得る誤りを抑え、より長い計算へ拡張するための要素となる。一方、ノイズに対する信号強度だけでは論理誤り率や計算精度の全体像は判断できない。 事業面では、3顧客向けに論理量子ビット回路を扱っていることが応用開発の進展を示す。ただし、顧客名の全容や具体的な商用性能、量子優位性量子優位性Quantum Advantage / Quantum Computational Advantage特定の問題で、量子コンピュータが古典計算より速度、精度、コストなどで実用上の優位を示すこと。QI補足「量子超越性」と同義とは限らず、実用性を含めて使われることが多い。主張を見る際は比較した古典手法と評価指標を確認したい。は示されておらず、今回の結果だけで商用利用の成熟度を確定することはできない。
今後の注目点
次の焦点は、論理演算の誤り率や原子損失の詳細が示され、従来方式との比較を含む検証が可能になるかである。100論理量子ビットへの拡張時にも、今回の接続性やゲート削減効果を維持できるかが重要となる。加えて、3顧客との開発が具体的な利用事例や性能評価につながるか、2028年と2030年のロードマップに向けた中間成果が公開されるかが判断材料となる。
✍️ Quantum Indexの視点
Infleqtionは、30個の論理量子ビット論理量子ビットLogical Qubit複数の物理量子ビットと量子誤り訂正を使い、エラーから保護された1つの量子ビットとして扱う情報単位。QI補足「論理量子ビットを作った」だけでFTQCが完成したとは限らない。論理エラー率や演算性能、スケール可能性を確認したい。を互いに関係付けて動かす回路を実機で実行した。これは、将来より大きな問題を量子コンピューターで扱うために必要な技術だ。ただし、30個をエンタングルしたこと自体は業界初でも最多でもない。先行する各社・研究チームの成果と並べると、今回の位置付けが見える。
| 企業・研究チーム | 論理量子ビット数 | 実験内容 |
|---|---|---|
| Harvard・QuEraなど | 最大96個 | 2025年、複数の論理量子ビットを空間と時間にまたがって結ぶクラスター状態を実験 |
| Quantinuum | 94個 | 2025年、誤り検出型の論理量子ビットでGHZ状態を作成。検出した結果を除外する方式 |
| Harvard・QuEraなど | 48個 | 2023年、48個を結ぶ量子回路量子回路Quantum Circuit量子ビットに対する初期化、量子ゲート操作、測定などを順番に並べ、量子コンピュータで実行する計算手順を表したもの。QI補足同じアルゴリズムでも、使用する量子ビット数や回路深度、ゲート数は実装によって変わる。実機性能を比べる際は、回路の規模やコンパイル後の条件も確認したい。を実行 |
| Infleqtion | 30個 | 今回、Sqaleで30個を結ぶ量子回路を実行 |
| Atom Computing・Microsoft | 24個 | 2024年、24個をエンタングルした状態を報告 |
※作成した状態や回路、誤りへの対処方法が異なるため、個数だけで性能を順位付けする表ではない。
さらに注意したいのは、今回の「30論理量子ビット」を、そのまま耐故障量子計算に使える30論理量子ビットと受け取らないことだ。Infleqtionは8個の物理量子ビット物理量子ビットPhysical Qubit量子プロセッサ上で実際に作られ、操作される個々の量子ビット。論理量子ビットを構成するためにも使われる。QI補足搭載数が多くても、そのまま実用計算能力を意味しない。誤り率や接続性、論理量子ビットに必要な個数も重要になる。から3個の論理量子ビットを構成する符号を使っており、実際の回路では誤り検出や原子損失への対応を可能にする一方、本格的なFTQCFTQCFault-Tolerant Quantum Computing / FTQC量子誤り訂正を用い、物理的なエラーが起きても正しい計算を続けられるようにする、将来の本格的な量子計算の方式。QI補足量子誤り訂正の実証とFTQCの実現は同義ではない。論理エラー率、必要な物理量子ビット数、論理ゲート性能などが重要になる。で想定されるような一般的な量子誤りを継続的に訂正する論理量子ビットとは異なる。したがって、「80物理量子ビットから30論理量子ビット」という高い比率も、他社のFTQC向け論理量子ビット数と単純比較できる数字ではない。
それでも今回のInfleqtionの前進は、自社のSqaleで、昨年実証した12個から30個へ規模を広げ、30個全体をまたぐ回路を実機で動かしたことにある。単に30個を用意しただけではなく、全体にまたがる量子状態量子状態Quantum State量子系がどのような状態にあるかを表すもので、測定したときに得られる結果の確率などを決める。QI補足量子状態は、量子ビットの「0か1か」という単純な値そのものではない。重ね合わせや混合状態などを含み、どのように準備・測定されたかも重要になる。から明確な信号を得た点には意味がある。また、量子ビット量子ビットQuantum Bit / Qubit量子コンピュータで情報を表す基本単位。0と1のどちらかだけでなく、それらを重ね合わせた量子状態を取れる。QI補足量子ビット数が多いほど必ず高性能とは限らない。誤り率、接続性、コヒーレンス時間や論理量子ビット数も重要になる。同士を結ぶ操作を工夫し、主要な論理演算に必要な物理ゲート数を従来の半分に減らしたとしている。量子計算では操作を増やすほど誤りが入り得るため、同じ働きを少ない操作で実現する工夫は、回路を大規模化するうえで重要だ。
一方、「1 KiloQuOp」や「ノイズの約1,000倍」という数字だけでは、論理量子ビットによって実際にエラー率が改善したのか、回路をさらに長くした場合にも精度を維持できるのかまでは分からない。今回の成果は、他社の48個、94個、96個より高い計算性能を示したものでも、耐故障量子計算を実現したものでもない。少ない物理量子ビットから比較的多くの符号化量子ビットを作り、それらをまとめて動かすInfleqtionの設計思想が、30論理量子ビット規模まで拡張されたと見る方が実態に近い。
また、Sqaleは一台の機種名ではなく、Infleqtionが拡張していく量子コンピューターの製品系列だ。現在の実績と次世代機の計画を分けると、次のようになる。
| Sqaleの段階 | 論理量子ビット | 状況 |
|---|---|---|
| 2025年の実験 | 12個 | 達成済み |
| 今回の実験 | 30個 | 達成済み |
| 次世代Sqaleの製品仕様 | 50個以上 | 予定 |
| 2028年の目標 | 100個 | 将来目標 |
| 2030年の目標 | 1,000個 | 将来目標 |
したがって、今回の発表は「30個という業界記録」ではなく、「Sqaleのロードマップを一段進めると同時に、低い物理量子ビット・オーバーヘッドで多数の符号化量子ビットを扱う設計を実機で示した成果」と見るのが妥当だ。次に評価したいのは、論理量子ビット数そのものよりも、符号を強くしていった際にもこの低オーバーヘッドを維持できるか、そして論理エラー率を物理エラー率より実際に下げながら長い計算を実行できるかである。
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