Pasqal、中性原子量子技術を「研究室」から「産業」へ 欧州でQ-PLANET始動
Pasqalは、中性原子量子技術向け先端チップの生産ライン「Q-PLANET」の実施を統括する。3年間で5,000万ユーロを投じ、量子コンピューティング、量子センシング量子センシングQuantum Sensing重ね合わせや量子干渉などの量子現象を利用し、磁場、時間、重力などを高感度に測定する技術。QI補足量子コンピュータとは別の量子技術分野で、すでに実用化された例もある。性能を見る際は感度、分解能、測定環境を確認したい。、量子通信に必要な部品の産業化と欧州域内の供給網構築を目指す。
✍️ Quantum Indexの視点
発表内容の背景にある技術・事業上の意味と、数字や見出しだけでは見えにくい評価ポイントを解説します。 独自分析を読む ↓
発表概要
Q-PLANETは、EU Chips Joint Undertakingと各国・地域当局が共同出資するプロジェクトである。欧州11カ国の28パートナーが参加し、461nm、698nm、795nm、1013nmのレーザー、量子センシング・量子計算用の原子チップ、原子時計や磁場センサー向けの微細加工蒸気セルを開発する。 研究成果を工業生産へ移すため、標準化したProcess Design Kit(PDK)とAssembly Design Kit(ADK)も整備する。製造サイクル全体のエネルギー効率についても評価する計画である。 Pasqalは1013nmのチップ型レーザー光源の開発を主導する。また、レーザー光源と微細加工蒸気セルのエンドユーザーとして上位仕様を提示し、試験と検証に関与する。
重要ポイント
- 事業規模は3年間で5,000万ユーロで、欧州11カ国の28パートナーが参加する
- 4波長のレーザー、原子チップ、微細加工蒸気セルを産業グレードの部品として開発する
- 研究から工業生産への移行に向け、標準化したPDKとADKを整備する
- Pasqalは1013nmのチップ型レーザー光源開発を主導し、部品の仕様策定、試験、検証にも関与する
- 製造サイクル全体を対象にエネルギー効率を評価する
技術・事業上の意味
技術面では、中性原子方式中性原子方式中性原子量子コンピューター / Neutral Atom Quantum Computer / Neutral-Atom Quantum Computing電荷を持たない原子をレーザーなどで捕捉・配列し、その量子状態を量子ビットとして利用する量子計算方式。QI補足多数の原子を規則的に配置しやすい点が特徴。性能比較では原子数だけでなく、ゲート忠実度や再配置、損失率も確認したい。に必要なレーザー、原子チップ、蒸気セルを個別の研究成果にとどめず、標準化された設計・組み立て工程へつなげる点に意味がある。量子計算だけでなく、量子センシングや量子通信にも関係する製造基盤を対象としている。 事業面では、重要部品の欧州域内供給網を形成し、研究機関と企業の間で産業化を進める取り組みとなる。一方、量産能力、性能目標、商用化時期は今回の発表では示されておらず、創薬や材料探索も将来の用途として挙げられた段階である。
今後の注目点
今後は、1013nmを含むレーザーや原子チップ、蒸気セルについて、具体的な性能目標と試験結果が示されるかが焦点となる。PDKとADKの標準化がどこまで進み、試作から安定した製造工程へ移行できるかも重要である。加えて、生産能力や歩留まり、エネルギー効率の評価結果、Pasqalによる実機での部品検証が公表されるかが、産業化の進展を判断する材料となる。
✍️ Quantum Indexの視点
今回の発表で重要なのは、中性原子量子技術を「研究室で組み上げる装置」から、標準化された部品を調達して製造する産業へ移そうとしている点にある。Q-PLANETではレーザーや原子チップ、蒸気セルの開発だけでなく、PDKやADKまで整備する。これは個々の研究成果を量産可能な製造プロセスへ変換するための基盤づくりだ。
こうした動きはPasqalだけではない。InfleqtionはHoneywell Aerospaceのフォトニクス・ファウンドリを使い、レーザー安定化に用いる光キャビティーをSiNチップへ集積した。XanaduもGlobalFoundriesの300 mm製造ラインへSiNフォトニクスやSNSPDの製造を移そうとしている。IonQはさらに踏み込み、SkyWater Technologyを買収して半導体ファウンドリ機能を取り込み、Nexus Photonicsの買収によって量子向け集積フォトニクス技術も自社グループへ加えた。方式は違っても、各社が「研究者が個別部品を組み合わせる量子マシン」から、既存の半導体・フォトニクス産業の製造基盤を活用する量子マシンへ移ろうとしている点は共通している。
この点は、日本の量子ハードウェア産業にとっても示唆的だ。国内ではまだ、ハードウェアそのものの開発と少数台の導入・販売が中心で、専用部品の標準化や外部サプライヤーを含めた量産体制はこれからの領域が多い。今後、販売台数や海外展開を拡大するのであれば、実機の性能向上と並行して、再現性のある製造工程と供給網を早い段階から構築できるかも重要になる。
Q-PLANETはまだPilot Lineであり、量産体制が完成したわけではない。今後見るべきなのは、3年後にどの部品が実際に商用品として供給され、性能、歩留まり、コスト、供給能力まで安定するかだ。
NETWORKPasqalを取り巻く業界ネットワークを見る →関連記事
- Pasqal、防衛プログラムPROQCIMAから離脱 中性原子FTQCと商用展開へ軸足
- USA Rare Earth、Pasqal、Riven Systemsが提携 量子機械学習でレアアース分離のユースケース探索
- QuEra、メリーランド大学に既存機Aquilaを提供 研究支援の先に「将来の顧客づくり」も
