IBMとLockheed Martin、ETH Zurichに量子拠点 CSCSへスイス初のIBM Quantum System Two
IBMとLockheed Martinは、ETH ZurichにSwiss Quantum Innovation Hubを設立した。中核設備としてスイス初のIBM Quantum System TwoをルガーノのSwiss National Supercomputing Centre(CSCS)に設置し、2026年末までの稼働を予定する。
✍️ Quantum Indexの視点
発表内容の背景にある技術・事業上の意味と、数字や見出しだけでは見えにくい評価ポイントを解説します。 独自分析を読む ↓
発表概要
導入するIBM Quantum System Twoには、120個のプログラマブル量子ビット量子ビットQuantum Bit / Qubit量子コンピュータで情報を表す基本単位。0と1のどちらかだけでなく、それらを重ね合わせた量子状態を取れる。QI補足量子ビット数が多いほど必ず高性能とは限らない。誤り率、接続性、コヒーレンス時間や論理量子ビット数も重要になる。を備えるIBM Quantum Nighthawk r2プロセッサーを搭載する。IBMによると、同プロセッサーは毎秒10万回を超える回路実行が可能で、IBM Quantum Heron系の従来プロセッサーに比べて最大25倍の回路スループットスループットThroughput一定時間あたりに処理できる仕事量を示す指標。量子計算では、回路やジョブをどれだけ速く繰り返し実行できるかなどを表す。QI補足スループットの定義や単位は企業・システムごとに異なる。比較する際は、単なる実行回数だけでなく、回路規模や精度、待ち時間などの条件も確認したい。を持つ。7,500ゲートを含む量子回路量子回路Quantum Circuit量子ビットに対する初期化、量子ゲート操作、測定などを順番に並べ、量子コンピュータで実行する計算手順を表したもの。QI補足同じアルゴリズムでも、使用する量子ビット数や回路深度、ゲート数は実装によって変わる。実機性能を比べる際は、回路の規模やコンパイル後の条件も確認したい。での計算も実証したとしている。 ETH Zurichはスイス国内の大学、スタートアップ、企業による利用を調整し、専門知識や研究資源を提供する。IBMは量子コンピューターを運用し、CSCSは電力、冷却、セキュリティーなどの設備基盤を担う。IBMとETH Zurichの設置・運用契約は、2029年までの当初3年間である。 参加組織は、クラウド経由のIBM量子計算資源と、稼働後の国内専用システムを利用できる。対象分野として化学、材料科学、最適化、金融サービスが挙げられているほか、講座、認定、ワークショップなどの人材育成も行う。IBMとLockheed Martinは初期研究として、量子センシング量子センシングQuantum Sensing重ね合わせや量子干渉などの量子現象を利用し、磁場、時間、重力などを高感度に測定する技術。QI補足量子コンピュータとは別の量子技術分野で、すでに実用化された例もある。性能を見る際は感度、分解能、測定環境を確認したい。を使ったナビゲーションと、金属合金の積層造形に関する研究を計画している。
重要ポイント
- スイス初のIBM Quantum System TwoをCSCSに設置し、2026年末までの稼働を予定する
- 搭載するNighthawk r2は120量子ビットを備え、毎秒10万回超の回路実行が可能とされる
- ETH Zurichが利用調整、IBMが運用、CSCSが電力や冷却などの設備基盤を担当する
- 国内の大学、スタートアップ、企業による研究利用と人材育成を一体化する
- IBMとLockheed Martinは量子センシングと金属合金の積層造形に関する初期研究を計画する
技術・事業上の意味
技術面では、量子システムをAlpsスーパーコンピューターと同じCSCS施設に置くことで、量子計算と古典計算古典計算Classical Computing / Classical Computation0と1のビットを使って計算する、現在一般に使われているコンピューターによる計算方式。QI補足量子計算との比較対象として使われるが、CPU、GPU、スーパーコンピュータや専用アルゴリズムまで含み得るため比較条件に注意したい。を組み合わせた研究環境の形成につながる。ただし、両システムの具体的な接続方法や処理分担は明らかにされていない。事業面では、国内の研究機関や企業が専用システム、クラウド資源、教育機会へアクセスする拠点を整備する点に意味がある一方、利用料金、参加条件、産業成果の目標は未公表である。
今後の注目点
まず、System Twoが2026年末までに稼働し、Nighthawk r2の性能を実際の利用環境で維持できるかが焦点となる。ハブへの参加条件や料金、利用組織が具体化するかに加え、Alpsスーパーコンピューターとの連携方式も重要な判断材料である。量子センシングと積層造形の初期研究については、実機検証の内容や成果指標が示されるかを見極める必要がある。
✍️ Quantum Indexの視点
今回の発表で重要なのは、120量子ビット量子ビットQuantum Bit / Qubit量子コンピュータで情報を表す基本単位。0と1のどちらかだけでなく、それらを重ね合わせた量子状態を取れる。QI補足量子ビット数が多いほど必ず高性能とは限らない。誤り率、接続性、コヒーレンス時間や論理量子ビット数も重要になる。や毎秒10万回超という性能値そのものではない。Nighthawk r2はすでにIBM Quantum Platformで提供されており、これらは今回のスイス拠点で初めて実現する性能ではない。新しいのは、その世代の量子ハードウェアをCSCSに置き、国内の大学や企業が継続利用できる研究基盤として整備する点にある。
CSCSへの設置は、将来の量子・HPC連携という点でも意味を持つ。IBMはすでに理研などとの取り組みで、量子プロセッサー量子プロセッサー量子プロセッサ / Quantum Processor / Quantum Processing Unit / QPU量子ビットを搭載し、量子ゲートや測定などの量子計算処理を実行するハードウェアの中核部分。QI補足QPUの性能は量子ビット数だけでは判断できない。ゲート忠実度、接続性、速度、エラー率などを合わせて見る必要がある。とスーパーコンピューターを役割分担させ、前処理、QPU実行、後処理を一連のワークフローとして動かしている。CSCSも大規模HPC基盤Alpsを運用しており、System Twoを単独の計算機ではなく、こうした異種計算環境の一部として利用する余地はある。ただし、今回の発表ではAlpsとの具体的な接続方法や共同ワークロードまでは示されていない。
また、Lockheed Martinとの初期研究には量子センシング量子センシングQuantum Sensing重ね合わせや量子干渉などの量子現象を利用し、磁場、時間、重力などを高感度に測定する技術。QI補足量子コンピュータとは別の量子技術分野で、すでに実用化された例もある。性能を見る際は感度、分解能、測定環境を確認したい。によるナビゲーションも含まれるが、これはNighthawk r2を使う量子計算とは別系統のテーマと見るべきだ。ハブ全体は量子計算だけでなく、センシングや製造技術まで含む広い研究拠点として構想されている。
評価を左右するのは、System Twoの設置そのものではなく、CSCSの既存HPC資源とどのような計算ワークフローを構築し、実際の研究・産業問題でQPUを使う意味を示せるかだ。利用組織や稼働率に加え、HPCのみの場合と比べた精度、処理時間、必要計算資源まで示されれば、この拠点の技術的価値はより明確になる。
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