Alice & Bob、18キャット量子ビットのオンプレミス量子システム「Helium」を発表
Alice & Bobは2026年6月10日、オンプレミス向けの「Helium Quantum System」を発表した。18個のキャット量子ビットキャット量子ビットCat Qubit / Schrödinger Cat Qubit異なる量子状態を重ね合わせた「猫状態」を利用し、特定種類のエラーを起こりにくくするよう設計された量子ビット。QI補足誤り訂正に必要な負担を減らせる可能性があるが、すべてのエラーが自動的に抑えられるわけではない。残るエラー率にも注目したい。で同社初の論理量子ビット論理量子ビットLogical Qubit複数の物理量子ビットと量子誤り訂正を使い、エラーから保護された1つの量子ビットとして扱う情報単位。QI補足「論理量子ビットを作った」だけでFTQCが完成したとは限らない。論理エラー率や演算性能、スケール可能性を確認したい。を符号化する設計とし、制御機器や監視インターフェース、ソフトウェアを含む統合システムとして研究機関への提供を目指す。
※キャット量子ビット(cat qubit)は、シュレーディンガーの猫状態(cat state)を利用した量子ビット量子ビットQuantum Bit / Qubit量子コンピュータで情報を表す基本単位。0と1のどちらかだけでなく、それらを重ね合わせた量子状態を取れる。QI補足量子ビット数が多いほど必ず高性能とは限らない。誤り率、接続性、コヒーレンス時間や論理量子ビット数も重要になる。であり、量子誤り訂正量子誤り訂正Quantum Error Correction / QEC複数の物理量子ビットに情報を分散して持たせ、量子状態を直接壊さずにエラーを検出・訂正する技術。QI補足実施しただけで実用的な耐障害性が得られるわけではない。論理エラー率が物理エラー率より改善しているかが重要になる。に必要なハードウェア規模を大幅に削減できる可能性がある技術である。キャット量子ビットの概念自体はAlice & Bob以前から研究されてきたが、同社は、ビット反転エラーを物理レベルで抑制する方式を実用的な超伝導回路として発展させ、FTQCFTQCFault-Tolerant Quantum Computing / FTQC量子誤り訂正を用い、物理的なエラーが起きても正しい計算を続けられるようにする、将来の本格的な量子計算の方式。QI補足量子誤り訂正の実証とFTQCの実現は同義ではない。論理エラー率、必要な物理量子ビット数、論理ゲート性能などが重要になる。の中核技術として事業化を進めている。
発表概要
Heliumは、プロセッサーから配線、制御電子機器、ソフトウェアスタックまでを量子誤り訂正向けに最適化したシステムである。現行構成は18個のキャット量子ビットを用いた論理量子ビットの符号化を想定し、将来は複数の論理量子ビットを搭載する見込みの48キャット量子ビットチップにも対応する設計となっている。 稼働時の消費電力は約40kWである。管理・監視インターフェース「Starboard」では、システムの挙動や個々の量子ビットの性能、ワークロード、ハードウェア指標を単一の画面から管理できる。 HPC環境との連携では、オープンソースのQRMIライブラリを介してSlurmなどの主要なスケジューラーに対応する。専用ソフトウェアフレームワーク「Felis」からHelium向けの命令を利用でき、主要な量子プログラミングフレームワークとの互換性も維持するとしている。同社は研究パートナーに実験と共同研究への参加を呼びかけている。
重要ポイント
- 18個のキャット量子ビットで同社初の論理量子ビットを符号化する設計
- 量子誤り訂正を前提に、プロセッサー、制御系、ソフトウェアを統合
- 48キャット量子ビットチップへアップグレードできる構成を採用
- 「Starboard」で量子ビット性能やワークロード、稼働指標を一元管理
- QRMIとFelisを通じてHPCスケジューラーや主要な量子開発環境との連携を想定
技術・事業上の意味
技術面では、キャット量子ビットのチップ開発から、論理量子ビットの実験に必要な制御系とソフトウェアを含むシステムへ対象を広げた点に意味がある。研究者が量子誤り訂正や量子・古典計算古典計算Classical Computing / Classical Computation0と1のビットを使って計算する、現在一般に使われているコンピューターによる計算方式。QI補足量子計算との比較対象として使われるが、CPU、GPU、スーパーコンピュータや専用アルゴリズムまで含み得るため比較条件に注意したい。資源の統合を実機で調べるための基盤となり得る。ただし、論理量子ビットの誤り率や動作性能は今回の発表では示されていない。 事業面では、オンプレミス導入を想定した完成システムとして、HPCセンターや研究機関との接点を設ける動きである。一方、提供時期、価格、導入先、研究提携先は明らかにされておらず、具体的な展開規模は現時点では判断できない。
今後の注目点
まず、18キャット量子ビットによる論理量子ビットの実測性能や、物理量子ビット物理量子ビットPhysical Qubit量子プロセッサ上で実際に作られ、操作される個々の量子ビット。論理量子ビットを構成するためにも使われる。QI補足搭載数が多くても、そのまま実用計算能力を意味しない。誤り率や接続性、論理量子ビットに必要な個数も重要になる。と比べた誤り抑制効果が示されるかが焦点となる。加えて、提供時期や価格、研究パートナーと実施する実験の内容が具体化するかも事業性を判断する材料である。48キャット量子ビットへの更新と複数論理量子ビットの動作、実際のHPC環境での運用実績についても注視する必要がある。
✍️ Quantum Indexの視点
今回の発表の価値は、「18個のキャット量子ビットキャット量子ビットCat Qubit / Schrödinger Cat Qubit異なる量子状態を重ね合わせた「猫状態」を利用し、特定種類のエラーを起こりにくくするよう設計された量子ビット。QI補足誤り訂正に必要な負担を減らせる可能性があるが、すべてのエラーが自動的に抑えられるわけではない。残るエラー率にも注目したい。」そのものではなく、Alice & Bobがチップ開発企業からシステムベンダーへと次の段階へ進んだことにある。 これまで同社はキャット量子ビットの研究開発を中心に発信してきたが、今回は冷凍機、制御装置、ソフトウェア、運用ツールまで含めた統合システム「Helium」を公開した。研究機関やHPCセンターで実際に運用できるオンプレミス環境を提供することで、アーキテクチャだけでなく、システムとしての成熟度を示そうとする姿勢は注目に値する。
一方で、キャット量子ビットの優位性は単体デバイスの特性だけで決まるものではない。システムへ統合した際にも、その低エラー特性や誤り訂正の効率化という利点をどこまで維持できるかが重要であり、「18個のキャット量子ビットで論理量子ビット論理量子ビットLogical Qubit複数の物理量子ビットと量子誤り訂正を使い、エラーから保護された1つの量子ビットとして扱う情報単位。QI補足「論理量子ビットを作った」だけでFTQCが完成したとは限らない。論理エラー率や演算性能、スケール可能性を確認したい。を実現」というロードマップについても、実際の論理エラー率やシステム全体の性能を示す実証データが今後の評価を左右するだろう。
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